1.企画の経緯コーポラティブハウスを企画して入居者の募集をしたくなるような好立地に、 企画段階からお任せいただけるということであったものの、 区分所有建物ではなく、あくまでも賃貸住宅を建てたいという要望であった。
計画地は第一種低層住居専用地域で、容積率100%と1種あたりの土地コストが非常に高い住宅地エリアである。事業計画においては、地下の容積緩和も活用した土地の有効利用が求められてくる。そのため、1住戸あたりの専有面積を大きめに確保したファミリー向けというよりは、感度の高い若い世代で、単身もしくは夫婦、DINKS等を主なターゲットにした住宅が有効であろうと考えた。
そこで、これまでに15棟のコーポラティブハウスを設計してきた経験を活かしながら、『コーポラティブハウスと同じように設計段階で入居者を募り、自由設計で住戸をつくる』ということをコンセプトとした賃貸住宅を提案した。住戸面積は30㎡台半ば~50㎡台半ばとし、自分のお店を持ちながら暮らすというニーズにも応えられるよう、1住戸だけ90㎡台で店舗併用可能な住戸を用意した。
2.「賃貸」+「自由設計」スケジュールや賃貸ニーズから、すべて自由設計対応とすることは現実的とは思えない。そのため、 「自由設計対応の住戸」と「デザイン提案型の住戸」「最大公約数向けの住戸」といった複数のプランを用意した。
今回、「賃貸」+「自由設計」という我々にとっても新しい事業手法を構築し、「at will(=思い通りに)」というコンセプトワードをプロジェクト名にして、参加者(賃貸入居者)を募った。
参加者は設計者と打合せをし、好きなように内装をつくりこむことができる。費用負担については、一般的な坪単価をもとに算出した標準工事費を超えた分の内装工事費と、内装設計料、そして中途解約時の違約金の意味を持たせた保証金(賃料の6か月分とし、入居後は敷金に充当する)だけで、住宅取得時のような頭金も要らずに参加できるようにした。自由設計によって発生した内装工事費も、完成時に現金で支払うのではなく、入居後の月々の家賃に上乗せすることで払うという仕組みである。
ただしあくまで区分所有建物ではなく賃貸住宅なので、建物の所有権は、自由設計によってつくった内装材も含めすべてオーナーに帰属する。内装工事費を賃貸入居者が負担してつくるのではなく、オーナーが一旦は負担した内装工事費を、賃料(使用料)に替えて返していくというイメージだ。賃貸期間は5年の定期借家契約方式(再契約型)とし、仮に早期退去となって賃料に上乗せしている内装工事費を払い終わらなくても、敷金額を上限として放棄することで精算できることとした。
自由設計の取り組みにはもちろんタイムリミットがあり、工事が進んでいくにつれて設計の自由度に制約が出てくるため、着工後しばらくして自由設計参加者募集を終了し、一般的な完成後入居者募集方式に切り替えた。
全9戸すべてが異なる間取り。SOHO利用を視野に入れてプライベートとパブリックを階層で分けたメゾネット住戸や、専有面積の半分近くを占める開放的なバスルームを大胆に設けた住戸など、バラエティ豊かなライフスタイル提案型住戸の中から住まい手が自分らしく暮らせる住戸を選べるようになっている。
開放的な浴室をもったプラン
立体的な空間の有効利用を図ったプラン3.持たない暮らしコーポラティブハウスを企画する際には、「思い通りの住まいをつくることができる」という「取得する」メリットに注目していた。しかし昨今、モノを持たない身軽な暮らし、転勤や家族の誕生等ライフステージの変化に応じて柔軟に住み替えられる暮らしに対する需要も一定数あると思っている。
住まい手の多様なライフスタイルに対応しつつ、かつ、そういった賃貸住宅への需要に応えるための事例には、間取りにバリエーションを持たせたり、退去時の原状回復を前提として入居時に好きな内装材を選べるオプションをつけたりといった手法がある。しかし今回、建物完成前に入居者を集めるコーポラティブハウスの手法を組み合わせることで、持ち家でなくても住まい手が設計に主体的に関わることができ、積極的な愛着をもてるような住まいづくりができるのではないかと考えた。
自ら住まいづくりに関わったという体験が住まいへの愛着となり、それが結果として長期入居へとつながり、オーナー目線での賃貸稼働率向上に寄与できればと思っている。
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