地主の想いから始まったプロジェクト [ゼロワンの設計を語ろう]
昨年夏に竣工したコーポラティブハウス『tradica』は、大きな土地を持つ地主の方から、「先祖から受け継いできたこの土地を大切にしてくれる人に住んでもらいたい」と言う要望にたいして、コーポラティブハウスを提案することで実現をした計画です。
相続対策で敷地全体を維持継承することが困難になり、やむを得ず大半を手放さざるを得なくなってしまった地主ですが、そこがさらに細分化されていくことに強く抵抗があったようです。敷地の一角に自宅を残す心積もりの地主にとって、かつての自宅の一角にミニ戸建て開発が行われたり、賃貸や分譲マンションになること対し、否定的な考えを持っておられました。とは言っても、大きな敷地に大きな一軒家を構えて、ずっと住み続けることの難しさを実感している地主にとって、大きな戸建てを期待するにも、可能性の低さと将来に対しては不安があるようでした。そうした中、正にコーポラ住宅と言うスタイルは地主にとって、思い描いていた理想の姿に近いものだったようです。すまい手の顔も見え、住まいに対する思いの深さもあり、将来すぐに再開発されるリスクも少なく、まとまった空地や緑などが末永く継承されるであろう住まいの形、漠然と追い求めていた思いを一気に解決してくれるのが、コーポラティブハウスだったのです。この計画は、すまい手だけではなく、元地主の夢をも背負った計画だったのです。

実はこの計画は最初、地主の方は私どもも含め、何社かのコーディネート会社へ連絡いれたのです。すぐにアプローチしたのは私共ではない二社でした。そのうちの一社であった㈱タウン・クリエイションから共通の知人を通して、設計の打診を受け、共同パートナーとして一緒に地主のところへ出向いたところ、意気投合するような形で一気に話がまとまりました。ゼロワンオフィスとしては、初めての他社とのコラボレートでしたが、それぞれが単独で動くより、今回の様にチームを組むことで地主からのより強い信頼を得られたと聞いています。会社としては弱小、零細規模の多いコーディネート会社にとって、今後も各社の強みを生かしたコラボレートと言う選択肢は有効だと思いました。

さて、具体的な設計ですが、時代を経た庭木も多く、もはや個人の所有と言うよりは地域のシンボルにもなっている松の大木を、まずは保存しようと初めて敷地を見た時に決めていました。ほか、梅や楓など残せる樹木は残す配置計画をし、さらに外構計画において、武蔵野の面影を感じることが出来る里庭のように自然な緑を育てる環境をつくることを目指しました。建築的にも壁面緑化や屋上緑化に努めるなど、多くの緑に囲まれたコーポラティブハウスをテーマに計画をしました。

この建物は11世帯のコーポラティブハウスです。法的には共同住宅も可能な敷地でしたが、あえて長屋で計画をしました。効率よく共同階段などをつくるより、里庭を歩きながら自宅へ向かうほうが、イメージに近かった上、東京都安全条例による窓先空地などを設けるより、長屋で計画したほうが床面積も取れたからです。

既存の緑を守り、新たに緑を育てる環境をつくると共に配慮したのは、住宅街の中のスケール感、建物のボリュームを小さく見せることでした。本当は分棟形式にしてボリュームを小分けに出来ればよかったのですが、敷地面積的に無理であったので、東西30mあるボリュームを、戸堺壁を大きく跳ねださせたり、3階をセットバックさせるデザインとして、視覚的に建物を分断させ、大きな壁面をなくすデザインにしました。

コーポラティブハウスは、出来上がってしまえば分譲マンションやタウンハウスと同じ区分所有法が適用される集合住宅です。住まい方や入居者間のつながりなど、コーポラならではの特徴あるものも多いですが、むしろ通常のマンションとの決定的な違いは、つくられる「きっかけ」や成り立ちにあります。コーポラティブハウスの幅広い可能性と魅力を知っていただければ思います。
なお、ゼロワンブログのカテゴリーに設けているtradica[吉祥寺]から、プロジェクトの進行状況をご覧頂けます。建設組合のイベントや工事中の現場の様子など、コーポラティブハウスはどのように出来上がっていくのか、ブログで紹介していますので、こちらも合せて読んでみて下さい。
■tradica[吉祥寺](ゼロワンblogカテゴリー)
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