建築家コラム vol.06 / 「アルバ アアルト」 [建築家コラム]
スタッフ タカイAlvar Aalto/アルバ アアルト(1898~1976 フィンランド)
欧州の最果て、生涯フィンランドで仕事をした建築家。旧紙幣(マルカ)に印刷されていたほどフィンランドの人々に愛された国民的英雄で、彼の作品は亡き後も世界の建築家たちに影響を与えている。中でもフィンランドの後続の建築家達に与えた影響は表面的なアアルト・スタイルというのではなくフィンランドの自然・風土に即したデザイン志向で、その原点がアアルトのデザイン姿勢にあるのではないかと思える。

フィンランドをイメージしてみる。氷河期には数千メートルの氷河に覆われ、溶けた氷は大地を削り険しい荒涼とした地形が露になっている。針葉樹の林立した森には湖底まで見えてしまいそうな湖がひとつの波紋も立てず静かに佇んでいる。彼の作品は素直にその風景に上手く溶け込み余計な主張はしない。例えば、マイレア邸・夏の家は元々そこに存在していたかのように風景の一部となっている。
彼の設計手法はしばしば、「有機性」と形容されるように自然を模倣し、学んでいるものだ。マイレア邸では大開口を隔てランダムな柱の配置としたり、夏の家では数種類のレンガをタペストリー状に床・壁に施し、自然を抽象化した。当時の国際化様式では見られない手法で、均一な自然はないということなだろうが、それが装飾やデザインのやり過ぎには決して見えず心地良く感じられる。彼自身抽象画を残しているが建築もアートも同じスタンスで取り組んでいると言うことだ。
有機性とは?という質問で彼はこうも言っている「林檎の木に咲く花のようなものだ。」マクロの視線で見れば同じに見えるものでも一つ一つ異なっていると解釈すると。
当時ヨーロッパは国際様式化の波が押し寄せていたが、アアルトはそれを否定するのではなく、その流れを受け入れつつも加えて柔軟性を模索していたのである。さらに可変空間・転用といったところまで着目し実践しているが、今でいうサスティナブル(持続可能)に近い物を感じる。半世紀以上前に意識していたことに脱帽の思いである。アアルトには他の巨匠たちのような華やかさはないが身の丈のスケールを大事にした巨匠ではないかと思う。
また、北欧デザインの中でも波をモチーフにした花瓶は有名だが、この他にもアアルトはプロダクト・ファニチャーを多く作っている。因みに、アアルトとはフィンランドの言葉で「波」という意味を持つ。
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