谷口吉生とウィントン・マリサリス [建築家のオフタイム]
この二人は父親の仕事や価値観を継承しつつ、自力で見事に時代をリードする作品を作り続けている二世たちです。親の七光りはその道のプロとしてのDNAだけです。直接的に手を差し伸べてもらうでもなく、親の名も利用せず、かと言って、否定するでもない関係で、俗に言う二代目ではありません。今回の二人に共通するのは、気品の高さと確かな技術、姿勢。育ちのよさが作品に表れているところです。真正面から向き合う地道な取り組みと新しい提案は、まさに先代の血を引いた王道を行くといった感じです。
ウィントンはエレクトリックジャズがはびこる中、80年代後半から「新伝承派」の旗手としてジャズ界を再び正統な(?)モダンジャズの流れに引き戻したトランペッターです。父親の時代の音楽、ディキシーやモダンジャズを現代風に解釈アレンジ、スタンダード曲集を精力的に発表しています。ポスト・マイルスデイビスとも言われた天才的な音楽感性と知識、確かな演奏技術で守備範囲は広くクラッシクにまで及んでいます。兄のブランフォードや父のエリスとの競演もすばらしい出来で、まさに一族には音楽の血が全身に流れている感じです。クラシカルなジャズから前衛的なジャズまで、あまりに器用に何でもこなすため、特徴を一言で語るのは難しいミュージシャンです。
一方の谷口も建築家、谷口吉郎の血を見事に受け継いでいます。大学では機械を専攻しましたが、大学院で建築を学びました。その後、丹下研を経て、独立後は美術館、記念館、博物館などで、建築学会賞をはじめ数々の輝かしい賞を受賞しています。
昨年11月にリニューアル・オープンを迎えたニューヨーク近代美術館(MoMA)の増改築の設計者として、いま世界中でもっとも注目を集めている建築家です。マンハッタンの中に完成した写真を見て、僕も日本人で愛国心があるのだなあと妙に誇らしく感じた作品です。
モダニズム建築家であった父親の影響とも感じられる設計スタイルは、大胆でシンプルな構成かつ研ぎ澄まされたディテールと、絶妙な光の取り込み方でモダニズムを極めた感もあります。直線的な箱型の建築なのですが、水や緑をうまく取り込み、とても端正な外観を引き立たせ、その外観からは予想だにしなかった内部空間の展開に思わず、かっこいい!と感動するドラマチックな仕立てになっています。
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