せまい家でひろく暮らすということ [01スタッフより]
staff 安藤「あえて選んだせまい家」(ワニブックス)という本を書店で見つけ、手に取りました。30㎡~50㎡程度の比較的小さな家に家族で住むということを選んだ人の、暮らしに関する工夫などを紹介しています。間取り図のほか写真も多く、小さいながらも窮屈さを感じずに暮らす工夫が見てとれます。
延床面積35㎡の戸建て住宅を都心に建てて暮らす夫婦。53㎡の変則ワンルームに暮らす5人家族。さまざまな住まい方がありますが、私が特に気になったのが、30㎡のワンルームで暮らす夫婦の家。

限られた空間を広く使おうとすると、普通は小さい家具を選ぶとか、ベッドじゃなくて布団にして普段はしまうとか、「何もない余白」を増やす方法を考えると思います。これに対して、ここで紹介されているのは、10.5畳のワンルームにクイーンサイズのベッドと直径152センチのローテーブルを置いた住まい。家具を小さく!使わないときは収納!といった発想とはまったく逆です。
でも、このテーブルがあることで、食事もパソコン作業もといったように多目的に使うことができます。夫婦それぞれが別のことをしていてもお互いが気にならない、ほどよい距離が保てるというメリットもあるそうです。衣服や本はクローゼットに収納して小物は極力少なくしながら、居室はテーブルを囲んで広く使う。なるほどなぁ、と思いました。
考えてみれば、くつろぐためのソファがあって、食事をするためのダイニングテーブルがあって、書斎があって、といったように、それぞれの目的のために専用の場所をつくろうとするから、多くの面積を必要としてしまうのだと思います。そこにいればいろいろなことができる多目的な空間を用意することが、「せまい家でひろく暮らす」秘訣なのではないでしょうか。
結果として実現できているのかよく分かりませんが、実際、私の家にはリビングがありません。テレビをもっていないし、またソファでくつろぎたい!という気持ちもあまりないので、必要ないというのが本当のところです。そのかわり、75センチ×90センチのダイニングテーブル(大きいほうだと自分では思っています)で食事をするほか、ノートパソコンを置いて仕事っぽいことをすることもあるし、本を読むこともあります。座った正面には壁面本棚があるので、本が徐々に増えていく様子をなんとなく眺めているだけでも、結構居心地良い時間を過ごせたりします(傍から見たらおかしな人みたいだな・・・)。

建築家・宮脇檀のエッセイ「日曜日の住居学」(河出文庫)にも、クライアントに「本当にリビングは必要ですか?」と迫ったり、逆にクライアントから「リビングなんていらないですよ」と当たり前のように言われて「おっしゃるとおり!」と賛同したりする著者が描かれています。ただなんとなくあるだけの場所だったら、ないほうが良い。そこで自分はどうやって過ごしているのかを、よく考えてみる。住まいの設計にとどまらず、プロジェクトを企画をするにあたっても、大切なヒントが隠されているような気がします。