道具 [01スタッフより]
staff M.M.10年前、私が社会人になった頃はどこの事務所でも大抵ひとり一台製図台が用意されていた。
それが・・・
今ではひとり一台のパソコン、プラス事務所に一台製図台があればいい方だ。
図面がCAD化され、協力事務所や施工会社とはCDやMOを使い情報交換ができるようになった。今ではメールでやりとりすることも多い。CADを使えば最初に作図だけしておいて、後でレイアウトし直すことも可能だし、訂正も容易にできる。図面の彩色やパースを立ち上げるのも簡単になり、限られた時間の中でできるプレゼンテーションの幅が広がった。絵心がなくても、ある程度のパースが書けてしまう。などなど利点は多い。
ただやはり便利になった分、弊害はつきものだ。まず第一に図面の表情が乏しくなった。手描きの頃は、一目見れば誰が描いた図面なのかすぐにわかったものだ。図中の文字などは最たるもので、筆圧や線の太さなど、描き手の癖が出てしまう。繊細な図面を描く人もいれば、力強い線を描く人もいる。
原図に対する意識も低下してしまった。トレーシングペーパーに何時間もかけて人の手で描いた図面と、プリンターから何枚でも出すことができる図面ではやはりその重みが違ってしまうのだろう。
また簡単な入力をするだけで日影図などが作れるようになったため、そもそもの原理を知らずに使う若いスタッフが増えた。コンピューターに計算させるのは簡単だが、操れるだけの知識と能力がなければ理解していることにはならない。入力だけなら誰でもできる。
手描きの図面を目にする機会が減りさみしいのも事実だが、今となってはCADなしで仕事をすることは難しい。
しかし、初期のスケッチやディテールの検証などは、未だに紙と鉛筆を使っている設計者も多いと思う。クライアントや現場との打合せの際にスケッチを描くこともある。
これから先も手描きのスケッチがゼロになることはないだろう。
便利な道具として利点を生かし、CADとうまく付き合っていくことが大事なのだと思う。